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遺留分と遺留分減殺について
新民法により、遺留分を侵害された相続人が有する権利が「遺留分減殺請求権」から「遺留分侵害額の金銭支払い請求権」へと変化しました。前者が物権的な効力を有するのに対し、後者はあくまで債権的な効力を有するものであるという点に大きな意義があります。
旧法下での「遺留分減殺請求」は物権的な効力を生じさせるものであったため、遺留分減殺請求権を行使すると、遺贈や贈与の対象財産が遺留分権利者との共有状態になってしまいました。
そのため円滑な事業承継が阻害されるという弊害がありました。また、遺留分減殺請求の対象となる財産が居住建物であった場合、そこに居住する生存配偶者の権利を十分に保護できないという批判もありました。そのため、新法では遺留分減殺請求権を、あくまで「遺留分を侵害された額の金銭を支払えと請求することのできる権利」とすることにしたのです。これによって、実務上いくつかの変更点が生まれることとなりました。
まず一つ目が、遺留分権を侵害された相続人の権利についてです。旧法下では遺留分減殺請求権を行使すれば、遺留分侵害の限度内で遺贈や贈与を失効させ、受遺者や受贈者が取得した権利を、その限度内で自己に帰属させることができました(最判小51・8・30民集30巻7号768頁)。この点、新法では遺留分権を侵害する遺贈や贈与を失効させることはできなくなりました。あくまで遺留分を侵害した額の金銭支払い請求権を有するにとどまります。
二つ目が、登記との関連です。遺留分権が物権的な効力を有さず金銭支払い請求権のみを有することとなったため、遺留分減殺請求を原因とする登記手続きは、事実上あり得ないこととなりました。
(参考条文)
新民法1046条
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額